着床不全(着床障害)

体外受精や顕微授精で移殖を繰り返しても上手く着床しない、着床したと思っても胎嚢確認や心拍確認まで行かない…。着床不全(以後、着床障害)は心も身体も大きくダメージを負ってしまうものです。近年、このような着床障害に悩まれている方が増えており、新しい検査方法や治療法が出てきています。



着床障害とは?

体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合80%以上の方が妊娠されるといわれており、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を「反復着床不全」と呼んでいます(日本産婦人科学会HPより)。
着床障害に関しては、原因がまだ十分解明されていない分野であると同時に、研究がどんどん進んでいて、様々な検査方法や治療法が出てきています。そのため、必ずしも統一した内容で行われているわけではなく、病院ごとに実施する検査内容も異なっているのが現状です。また、着床しても途中で発育が停止し、流産を繰り返しているものを「不育症」といいますが、着床障害と不育症は重なる部分があるため、着床障害の検査の中には不育症と同様の検査内容が含まれることもあります。



着床障害の原因・検査・治療

着床障害の原因として考えられるものは大きく分けて
受精卵側の問題
子宮内の環境の問題
免疫寛容(受精卵の受け入れ)

の問題があります。



中医学で考える着床障害

中医学では、大切な受精卵を守るのは「気(エネルギー)」だと考えており、受精卵にしっかりと栄養を与えるのは「血(けつ)」だと考えています。この気や血が充実し、しっかり巡っていることが着床とその後の妊娠維持に不可欠なので、着床時期の前からしっかりと気血を充実させておく事が大切です。また、血流が滞っていることを瘀血(おけつ)といい、着床を妨げます。妊娠のためには全身の血の巡りが良い事が大切ですが、着床のタイミングでは特に骨盤内血流(子宮内血流)が豊富であることが特に大切で、爽快館ではオリジナルメソッドである妊活鍼灸「誠心堂式三焦調整法(さんしょうちょうせいほう)」により体全体の血流バランスを調整し、骨盤内血流を増やすアプローチを行っています。
着床の窓(インプランテーションウィンドウ)の時期に現れる子宮内膜の構造を「ピノポード」といい、血流がしっかりと届くことも大切です。

着床の窓



着床障害の鍼灸治療

着床のためには「骨盤内の血流の改善と安定」は欠かせません。爽快館では、妊活鍼灸「誠心堂式三焦調整法(さんしょうちょうせいほう)」により、自律神経調整や血流バランスを整えることで、子宮や卵巣への安定的な血流改善を行っています。
鍼灸治療では、定期的な治療により安定的な血流改善を促すと同時に、ARTの際には胚移植前後での「着床鍼」※リンクの案内を行っています。今までARTを繰り返してもなかなか着床まで至らない着床障害のケースにおいても、着床鍼などの鍼灸治療を行うことにより着床に結びつくことは、鍼灸の臨床においてよく経験しています。実際の治療では、ツボを組み合わせることにより働きを高めますので、全身に鍼灸施術を施します。
お家でのツボ押しやお灸も、子宮を温めたり着床の助けになるため、積極的に取り入れるようにしましょう。

着床障害で使う代表的なツボ:三陰交(さんいんこう)腎兪(じんゆ)関元(かんげん)など。


鍼灸の有効性


鍼灸の有効性鍼灸の有効性
【左が鍼を刺す前、右が鍼をして5分後の体温変化をみたサーモグラフィー】
下腹にある関元穴に針をすると血流がよくなり温度が高くなっています(赤色よりも白色が温度が高い)。
下腹部(骨盤内)の血流をあげると言うことは子宮卵巣への血流をあげると言うことです。
安定的な血流は卵子の質の向上に繋がります。



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 ①受精卵側の問題
性染色体に問題があったり、年齢により受精卵に問題があると、受精卵が成長できないため、着床できなかったり着床してもその後の胎嚢確認や心拍確認までいかないことがあります。着床したとしても安定期に入るまでの流産の多くは染色体の問題だと考えられます。
「反復体外受精・胚移植(ART)不成功例、習慣流産例(反復流産を含む)、染色体構造異常例を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性に関する多施設共同研究」の研究分担施設として承認されているクリニックが出てきています。検査には条件がありますが、いくつかの病院のホームページを詳しく読んでみると良いでしょう。



 ②子宮内の環境の問題
粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮奇形のほか、慢性子宮内膜炎など様々な子宮環境の問題があり、現在は検査の種類がどんどん増えています。

 ※(感染性)慢性子宮内膜炎
慢性子宮内膜炎の罹患率は約10-30%と言われ、原因は確定されていませんが子宮内感染(細菌、クラミジアなど)、子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫などの可能性が指摘されていていますが、原因の多くは感染性です。感染の持続により免疫活動が活発化され、子宮内膜内の免疫異常を引き起こしたり、受精卵を異物として攻撃してしまう可能性も指摘されています。急性子宮内膜炎は月経期に細菌も一緒に排泄されて治ることもありますが、慢性子宮内膜炎は自覚症状が無い事も多く、基底層にまで炎症が起こっていますので自然には治りませんが、抗生剤を2~4週間ほど服用することでほとんどの方が治ります。慢性子宮内膜炎の診断にはBCE検査やALICE検査があります。
「BCE検査」とは、子宮内膜を少量採取し子宮内膜間質への形質細胞の浸潤(CD138陽性細胞)を免疫染色という方法により病理組織学的に診断することで、『現在慢性子宮内膜炎になっているかどうかの診断』はつけられますが、それが細菌性なのか非細菌性なのかは分かりません。
「ALICE検査」とは、子宮内の細菌のDNAを検出して細菌の特定と割合を出す検査であり、細菌を特定することは可能ですが、『現在、慢性子宮内膜炎なのかどうか?』の診断にはなりません。ただし、近い将来炎症を起こす可能性が高いのではないか?と推測することは可能で、細菌を特定できるとピンポイントで必要な抗生剤を使用することができます。 どちらが良いとか悪いではなく、違うものを見ている検査ということです。

 ※子宮内膜症性腹水や卵管留水腫の内溶液
卵管に水が溜まっていることを「卵管水腫」といい、この水が子宮内に流れ込むことで慢性子宮内膜炎を引き起こしたり、物理的に着床の邪魔をする可能性があります。卵管留水腫の場合、おりものが多くなる事があります。腹腔鏡検査により卵管留水腫がある場合は手術で対応したり、慢性子宮内膜炎が起こっている場合はそのものの治療も行います。

 ※子宮内膜の細菌叢(ラクトバチルス菌)の共生バランス
子宮内膜には子宮内膜フローラと言われる細菌叢が存在し、その菌共生バランスが崩れるとARTの治療成績が不良になる事が分かってきています。特に子宮内膜の乳酸桿菌(ラクトバチルス菌)のレベルの変化が不妊の一因となっていること言われています。
「EMA検査(子宮内膜マイクロバイオーム検査)」とは、子宮の細菌叢が胚移植に最適な状態であるかどうかを判定する検査です。ラクトバチルス菌が90%以上ある事がよいとされていますが、ラクトバチルス菌が90%以上あれば良いというわけでは無く、細菌叢としてのバランスが整っていることが大切ですので、細菌叢全体のバランスを見ていきます。細菌叢のバランスが悪い場合(ラクトバチルス菌が少ない場合)乳酸菌膣錠などを使って治療を行い子宮内膜の細菌叢のバランスを整えていきます。

 ※インプランテーションウィンドウ(着床の窓)
胚が着床できる時期は決まっていて、高温期ならいつでもいいというわけではありません。「ERA検査(子宮内膜着床能検査)」とは、移植する日の子宮内膜が着床可能状態にあるかどうか(着床の窓が開いているか)を遺伝子レベルで調べる事ができるもので、移植に最適な時期を判断することができます。ERA検査により、着床障害の20~30%が移殖の時期がずれていたことが分かっています。検査に問題がなければ、今までと同じタイミングで移植を行い、胚移植のタイミングが早すぎた場合はプロゲステロン製剤投与から胚移植までの間を長くし、胚移植のタイミングが遅ければプロゲステロン製剤投与から胚移植までの間を短くすることで適切な時期に胚移植ができるように調整します。
※ALICE検査・EMMA検査・ERA検査は同時に行う事が可能です。

 ・着床時期に子宮収縮が起こっていないか
着床の時期に子宮収縮の所見があると受精卵の着床を妨げる原因となります。そのためエコー動画検査では着床期にエコーを3分間撮影し10倍速で分析します。正常であれば着床期に子宮収縮は見られませんが、子宮収縮がある場合は着床期に薬を服用して子宮の動きを止めます。ちなみに月経中は子宮は上から下に動いて排出を助け、排卵期は下から上に動く事で精子の受け入れを助けています。



 ③免疫寛容(受精卵の受け入れ)の問題

 ※銅亜鉛検査
銅と亜鉛の比率で、銅の比率が一定よりも高くなると着床へ影響すると考えられます。銅には着床を阻害する働きがあるため、子宮内に挿入する避妊具にも銅が使われます。銅と亜鉛は拮抗する性質があるため、銅より亜鉛が少し多いほうがよいとされています。治療には亜鉛サプリを服用します。

 ※ビタミンD検査
ビタミンDの不足は、卵の数や質の低下、妊娠率低下、不育症、妊娠合併症などと関連します。また、子宮内膜症や多嚢胞卵巣症候群などの方は、ビタミンDの値が低いとも言われています。逆にいうとビタミンDが十分にある方は、40歳以上の女性でもAMH(卵巣予備能)が高い、体外受精の妊娠率の上昇、習慣流産のリスクを下げるなどの良い面があります。治療にはビタミンDサプリを服用します。女性の方で日焼け止め対策を行いすぎて紫外線を全く浴びていないとビタミンDの不足にもなりやすいので気を付けましょう。

 ※甲状腺機能検査
橋本病の方は、一般の妊婦に比べて流産や早産がわずかに多いとの報告があります。妊娠前はホルモン値が正常でも、妊娠すると甲状腺機能が低下しやすいことが原因と考えられています。妊娠初期の胎児は、自分で甲状腺ホルモンを作ることができないため、母体からの甲状腺ホルモンにより成長しますが、甲状腺ホルモンは胎児の発達に大切な働きをしています。妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量は30%程増えますので、妊娠前と妊娠後も病院で適切なホルモン値にコントロールすることが大切です。

 ※免疫異常 Th1/Th2比
免疫異常による着床障害の原因の一つとして、1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)の比率異常です。Th2が優位な状態では着床・妊娠継続しやすいと考えられており、Th1が優位な状態では母体が胎児を異物として認識してしまい、拒絶反応により着床・妊娠継続しにくいと考えられています。採血によって、Th1/Th2の比率を測定し、Th1高値の方はタクロリムスや漢方薬などで治療を行います。

 ※抗リン脂質抗体
抗リン脂質抗体は、自己免疫異常の一つです。血液が固まり血栓ができやすくなるため、胎盤の細い血管に血栓ができると、胎児に十分な栄養と酸素を送ることができなくなり、流産や死産につながると考えられます。血栓形成以外にも、妊娠初期に胎盤のもととなる絨毛細胞を攻撃し、流産を引き起こす機序も考えられています。治療はアスピリンの内服やヘパリンの注射を行います。

その他、着床の成功率を高めるためクリニックによっては以下のような治療が行われています。

 ※シート法
胚は、発育途中に子宮内膜に対して着床を促進する因子を分泌しますが、その因子は胚培養中の培養液にも存在するため、着床率を上げる目的で培養液を移植前の子宮内に注入します。

 ※2段階胚移植法
子宮内膜を整える目的で受精後2~3日目に初期胚を移植し、5日目に胚盤胞を移植する方法です。

 ※アシステッドハッチング(AHA)
胚の透明帯が厚かったり硬い場合は、受精卵がうまく孵化できず着床出来ない事があります。アシステッドハッチングは、レーザー照射によって受精卵の殻(透明帯)に穴を開けたり、薄くすることで着床を促す方法です。

 ※エンブリオグルー【商品名】
エンブリオグルーとは、胚移植の際に用いる特殊な培養液の事です。子宮内にはヒアルロン酸が存在し着床を助けていますが、エンブリオブルーはヒアルロン酸を多量に含んでおり着床を助けます。

 ※子宮内膜スクラッチ
検査器具や子宮鏡カメラの先端などで子宮内膜の表面を傷つけることで、胚移植した際の妊娠成績が向上する可能性があることが報告されています。胚移植周期の前の高温期中期あたりに行われます。


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